シリアからの留学生
今年度の新入居者の中にシリアからの留学生がいます。エルセレーノとしては初めて迎える中東からの留学生、それも昨今世界中の注目を集めている国からなので、私は少し緊張しながら会う日を待っていました。イギリスに行っていたそうで、皆より1週間遅れて入居しました。
そして、間違っていた用紙を「これは貴方のお名前が書かれているので、貴方が処分してね。私は名前の書いてある書類や、不要になった郵便受けの名札を、自分が破らないようにしているから・・・」と彼に渡しました。すると「名前は僕のアイデンティティに関わること・・・」と言って表情を緩めて受け取りました。
提出書類は3種類あり「住民票」「入居完了届」、そして家賃引き落としの為の指定銀行の口座を開設した上で、「口座振替申込書」の本人控提出が必要です。
しかし彼は、「口座は開設できませんでした。」と言いました。「これまでにも大手銀行に断られてきました、差別です。どこでも理由は告げられないんです。」と続けます。私は黙って聞いていました。しかし、私の目は憤っていたと思います。
4種類のバクラヴァ |
書類提出が終わり自室へ戻った彼が、アルバイトの為にまた降りて来た際、手に何か持っていて私にそれを差し出しました。「シリア人の手作りだよ」と言いながらくれたのはお菓子でした。
その時、やはり新入居の台湾人留学生が大学から帰ってきました。彼女の部屋の設備に不具合が起こり親しく話すようになっていたので「貴女も頂いて・・・」と言って二人でそのお菓子を一つづつつまみました。しばらくしてそのあまりの美味しさに二人とも感動して声を上げました。なんという美味しさでしょう!彼はお菓子の名前を“バクラヴァ”と教えてくれました。パイ生地にナッツ類の刻んだものなどが入っていると思いました。あとで調べると彼が言っていたように、トルコなど中東のアラブ諸国で人気のお菓子のようでした。
それからの日々、彼はこの事務所の前を行き来するたびに、下を向いて何かしている私に「こんばんは!」と挨拶の言葉をかけて通り過ぎます。ムスリムの彼には、皆んなに好評の(多分!)卵焼きでさえアルコールである味醂を入れているのであげられません。醤油でもハラルのものでないと使えないのをわかっています。何にしろ敬虔なイスラム教徒ほど、日本人の調理した食べ物に警戒感を抱くに違いありません。もっとお付き合いしないとどの程度許容する人なのかわからないのです。バクラヴァの入っていたお皿には奄美大島のタンカンという柑橘を載せて返しました。
彼がここにいる2年間、精神的にサポートの真似事でも出来たら、と思います。
コメント
コメントを投稿