挨拶のことば

ボクちゃん、重そうやね…
毎日新聞日曜版に心療内科医、海原純子さんのエッセイが載っていて毎回楽しみにしていますが今週のタイトルは『「おはよう」と言わない職場』でした。海原さんの心療内科には、心療内科的な患者や悩める人たちが相談事を抱えてやってきます。

今週ピックアップされていたのは、「転職した職場の雰囲気が暗くて…」とぼやく人の話でした。暗い理由の一つは、職場に朝の挨拶の言葉がない、「お早うございます」と声を掛けてもこちらに顔も向けず「ん」とうなずくだけの人が多く、もう挨拶をするのをやめようかな、と思っていると云います。

今朝、そのエッセイを読んでいて私は「そうそう、そんな人いるわ~~!」と身の回りに起こった二つの出来事を思い出しました。7,8年前、今の書道教室で習いだした時、初めてのお稽古日に「ここに座ったら?…」と言う声に誘われてその人の後ろの席に座ったのでした。お稽古の日にその席に座る前に、前の席のお二人に「こんにちは~」というのが私の常でしたが、その度に不思議なことに「こんにちは」と云う返事が帰って来なかったのです。何年たっても同じでした。時々気が向くと前の人たちは悪びれもせず話しかけてくるので、私は(挨拶をする習慣のない人たちなのかな)と思っていました。他の人たちも同じ経験がある、と言うことでした。

早春、道端や野辺に咲くいぬふぐり
でも何年も、相手から返事もないのにこれ以上「こんにちは」と云うのに耐えられなくなって、席を替わりました。一番前の席が一つ空いていて、先生の説明が私語に邪魔されずよく聞こえ、隣に座っている人とは以前から挨拶の言葉を交わしていたからです。最近の2年くらいとても楽しい気持ち(これが普通ですが…)でお稽古に通えています。

もう一つの出来事は留学生との間で起きました。私は外から帰って来る学生には「おかえり」と言って迎えるのですが、日本語に習熟している学生は「ただいま」と返してくれます。あるいは「こんにちは」「こんばんは」だったりします。ある日、日本語学校の生徒が帰って来たので例によって「おかえり」と云いました。すると戸惑った感じで黙っているので『日本では帰った時には「ただいま」っていうのよ』などと教えたのでした。

すると翌日長い長い手紙が事務所の窓にくっつけてありました。「あいさつに何か意味がありますか?私は無いと思います。日本人の友達にも聞いてみましたが、無駄なことだと言っていました」と云うようなことを書いているのでした。中国の内モンゴルから来ている女の子ですが、日本語学校へ通い始めて6カ月程しかならないのに、この長い手紙を書いたということにまずびっくりさせられました。内容にも驚いたのですが、何とか返事を書いて2日後位に彼女の郵便受けに入れました。


らっぱ水仙をどうぞ…
もともと内気な女の子だと思っていましたが、その後彼女は、私とまともに顔を合わさないようにしていました。しかし、今年の元日に私は彼女からの年賀状を受け取りました。「今年もよろしくお願いします」と型どおりながら彼女の自筆で記されていました。

挨拶の言葉は単に言葉と言うに留まらない、と私は考えています。相手の人に、言葉と一緒にふんわりとした温かいハート形のボールをそろりと投げるということじゃないのかな、と思います。

  山茶花の ほろほろ落ちる 昼下がり   さちこ
  
  

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